研究内容の概要

 我々は材料開発のレベルの高い研究を通じて、ほんとうに役に立つ技術開発をめざします。我々は、既存の技術や新技術のシーズを融合する研究、これを社会の潜在的ニーズに繋ぐ研究活動を通じて、優れた技術者・科学者を育てることを使命と考えています。また、これらの教育研究活動を通じてビジネスプロモートもできる素養も養い、所属するビジネスエンジニアリング専攻の趣旨である「経営センスもある技術者・研究者の育成」に貢献します。
 現在我々の研究室進行中の研究活動を以下にざっと紹介します。これらは、科研費などの競争的研究資金、学振特別研究員のテーマとして採択され、ここ2〜3年で多くの学術論文や学会での発表、複数の「特許出願」、「受賞」、「雑誌・新聞での紹介」といった成果を上げつつあります。まだまだ進行中のテーマですので、これらのテーマ、またこれらに関連したテーマ、などに興味のある方々が我々のグループに参加して下さることを期待しています。

1)ナノ複合粒子材料の創製
 ナノ粒子創製の様々な方法を研究しています。 粒子が極微なだけでなく、実用特性のあるナノ粒子材料をめざします。優れた機能を発現させるには、単一の物質相から成る粒子では限りがあり、複数の物質相を含み、その内部構造や形状や寸法、さらには表面状態も制御した 「複合ナノ粒子」を狙います。十年近く前、放射線(γ線や加速器電子線)や超音波を用いたオリジナルな方法を我々は開発しました。この手法を利用し、実社会で必要とされる様々な粒子材料の合成技術として研究を展開しています。
@ナノバイオ応用
 この技術によるナノ粒子材料(磁性酸化鉄+金)を、遺伝子診断などのバイオディテクションやMRI造影剤に応用しようというプロジェクトをバイオ分野の研究者と共同で展開し、多くの成果をあげ、ベンチャー会社を立ち上げ実用化を目指す開発を継続しています。
 ・ 金磁性粒子のナノバイオ応用  ・大学発ベンチャーの挑戦

A触媒材料応用
 ここ数年は、白金をベースとした二元系金属を担持した複合ナノ粒子材料を燃料電池の高性能な触媒材料とする研究を進めています。白金の使用量を激減させ、燃料電池のコストを下げ自動車や家庭用電源への実用化につなげたいと願っています。
 ・DMFC用粒子触媒の合成と評価 ・PROX触媒の合成と評価

B抗菌繊維応用
 二〜三年前には、この放射線利用技術で繊維材料に銀を極々微量に付着させることで、非常に高い抗菌特性が出ることを見出しました。この抗菌特性は百回洗濯しても維持され、防臭・衛生・医療用の繊維製品への応用を目指して研究を展開しています。

 ・銀担持抗菌繊維の合成と評価
酸化鉄表面に金が付着した複合ナノ粒子    
2) 物質構造解析
 上のような粒子がきちんとできているかどうかを調べるため、高度な装置を駆使した観察と、物理化学の法則と照らし合わせた構造がナノ粒子研究には必須です。電子顕微鏡などのラボ内の装置だけでなく、 シンクロトロン放射光(Spring8やPF)や中性子(原子炉、JPARC)を積極的に利用した実験を実施しています。最近の実施例としては、放射光X線を利用したXAFS法で、2〜3nmサイズの二元金属粒子(原子が数百個しかありません)内で、 二種の原子(Pt-Ru、Pt-Pdなど)がどの様に配列しているかを判別することに成功しました。この成果は単に判別するだけでなく、その触媒特性の向上やその創製条件の最適化の二つの側面と併せて意義を高めています。
・ 高温中性子回折によるCo2Z型フェライトの温度依存性の調査
3)冷凍用の磁性材料の創製 
 あまり知られていませんが、磁性材料は冷凍技術に応用できます。我々は、十年以上前に、希土類の窒化物がこれに非常に適していることを世界ではじめて見出して、その実用化に取り組んでいます。GdN, TbN, DyN, HoN, ErNといった物質です。磁場を一旦加えた後に除く(消磁)すると温度が下がり冷凍機を構成できます。高い効率で水素を冷やして液化し水素エネルギー社会に貢献する研究を、国立研究所とのコラボで試験装置による冷凍実証をする段階まで進みました。
 ・ 極低温冷凍機材料としての希土類窒化物の実用化

最近は、希土類元素の資源問題がありますので、希土類を使わない磁石材料の研究も開始しました。磁気冷凍材料だけでなく、強い永久磁石材料を目指す材料開発も進めています。
4)磁場でがんを治療する方法 
 がんの治療法の一つにハイパーサーミア療法という熱でがんを退治する方法があります。ヒトの細胞は42℃以上にすると死んでしまいます。がんの部分は正常組織と比べ熱がこもりやすいため、電極で体を挟んで加温し、正常組織は42℃以下に、がんの部分は42℃以上にするのがハイパーサーミア療法です。しかし、これまでの治療方法では正常組織へのダメージを低減するために、がんの部分を42℃より少し高くすることができる程度です。がんの部分だけを加温することができれば、正常組織への副作用がなく、効率的に治療することができます。そこで、がん患部に交流磁場中で発熱する物質を入れ、周辺の正常組織は加温せず、がんのみを42℃以上にする治療法が提唱されています。この治療法を磁気ハイパーサーミアと言います。 磁気ハイパーサーミア療法を確立するために、様々な発熱体の開発と磁場を発生させる装置の検討を行っております。
 ・ 高周波磁界の医療応用〜磁気ハイパーサーミア〜

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